Shouting Fire in a Crowded Theater

30代・独身・リーマンの視点

定期借家権

大学のとき卒業論文として取り組んだのが,定期借家権制度が賃貸住宅市場に与えた影響の実証分析だ。以前少し触れたことがあるが、学生時代は計量経済学と労働経済学を中心に勉強するゼミに所属していた。定期借家権とは,契約期間の満了により確実に契約が終了する借家権のこと。2000年3月,「良質な賃貸住宅等の供給の促進に関する特別措置法」が施行され,日本にも導入された。 従来の借地借家法のもとでは,1度賃貸物件を貸すと契約期間が満了しても,「正当事由」がなければ返却を求めることができないなど,借り手が過度に保護されてきた。そのため借家,とりわけ居住が長期にわたると予想されるファミリー向けの床面積の広い借家の供給が著しく阻害されていた。こうした問題を解消するために導入されたのが定期借家権というわけだ。定期借家権の導入によって,借家の供給が促進され,それに伴って家賃も低下することが期待されている。

借地借家法の問題を知ったのはゼミの先生が担当していた講義だったが,自分で調べていくうちに非常におもしろいテーマだと思うようになった。というのも借地借家法と定期借家権をめぐっては法学者と経済学者の間で大きく意見がわかれていからだ。法学者は賃借人という「弱者保護」の観点から定期借家権に反対し,経済学者は賛成するのが大まかな構図となっていた。以前から法学と経済学の相違には関心があったので,制度の導入によってどのような変化があったのかを実証分析することで,法学者と経済学者のどちらの主張が正しかったのかを検証してみようと思ったわけだ。不動産市場に関心を持っていたというのもある。

卒業論文では,大竹文雄氏の先行研究等を参考に、賃貸情報サイト「フォレント」を運営するリクルートから提供してらった東京都の賃貸物件のデータもとに主として2つの分析をおこなっている。1つは2005年のデータから定期借家権付きの物件(以下定期借家)と従来の借家(一般借家)の家賃関数を推定した。築年数や床面積,都心からの距離といった他の条件をコントロールした結果,定期借家は同一条件の一般借家に比べて6%程度家賃が低いことが明らかとなった。これは一般借家の賃貸人が抱えていた,いつ物件が戻ってくるかわからないというリスク・プレミアムがなくなったためと解釈できる。もう1つの分析は,定期借家権制度の導入によって一般借家にどのような変化があったのかを,1996年から2005年までのデータをもとに,一般借家の家賃関数を推定することで求めている。この結果,2000年の制度導入後の一般借家の家賃は,導入前の一般借家の家賃と比較して,5%程度低いことが示された。ここから,定期借家の供給の開始が一般借家の家賃を押し下げる効果をもたらしたことがうかがえる。

分析結果から,?定期借家の家賃は一般借家よりも低いこと?定期借家権制度の導入が一般借家の家賃の低下を促したことが確認された。定期借家権制度は,貸し手のみならず借り手の選択肢も広げ,当初期待されていたような効果を達成したと言ってよいだろう。法学者と経済学者の論争についても,やはり後者の見解が正しかったと結論付けることができるのではないだろうか。今後は定期借家の普及のためにより一層の改革が求められる。 論文の作成では,データをもらうためにリクルートに何度も足を運ぶなど大変だと感じたこともあった。それでも,今振り返ると楽しい作業だった。定期借家権制度は,いっけん政府による新しい政策の導入と思われるかもしれないが,じつは借地借家法のような強行法規を制限し,民法上の「契約自由の原則」に立ち返っただけに過ぎない。このような政府の介入がもたらした弊害を実証できたのも,リバタリアンとしては(笑)やって良かったと思う。