Shouting Fire in a Crowded Theater

30代・独身・リーマンの視点

ワイアード

仲俣暁生の『ポスト・ムラカミの日本文学』は,現代日本文学への最良のガイド・ブックだと思う。もともと小説をほとんど読まないぼくが村上春樹を読むようになったのも,この本を読んだのがきっかけだ。春樹の作品自体はいくつかを除けば必ずしも納得しなかったが,この本は両村上とそれ以降の日本文学を作品が書かれた時代背景を含めて丁寧にまとめてあって勉強になった。 興味深かったのは,村上春樹の『神の子どもたちはみな踊る』にかなり否定的な評価を下していたことだ。たしか宮台真司はこの作品を「『世界』が描けている」といって高く評価していたから対照的だろう。ぼくは読んでいないので何とも言えないが(笑)

「ムラカミ」の作品では、村上龍の『テニスボーイの憂鬱』も取り上げて欲しかった。これはぼくのお気に入りだ。雑誌『ブルータス』で連載された作品だが、今はなき四谷ランドから出版された『皆殺しブック・レビュー』で福田和也が褒めていたので手に取った。読んでみるとたしかにおもしろい。政治,経済にかんする発言はどうでもいいが,小説の読み手としての福田は信頼できると思った瞬間だった。

話は変わるが、仲俣さんが『ワイアード 日本版』の編集者だったことを知り懐かしく感じた。1時期古本屋でバックナンバーを大量に買い集めていた。『ワイアード 日本版』はアメリカのハッカー文化を日本に輸入しようとした(そして失敗した)雑誌だった。日本でコンピュータといったものが結局オタクの文脈に回収されてしまったのは残念なことだと思う。スティーブン・レビーの『ハッカーズ』のような話は日本には存在しない。

当時ゲーム業界に関心を持っていたぼくにとっては,新作ゲームの紹介に終始する提灯雑誌とは異なり,産業としてのゲームに注目した数少ない雑誌だった。 とくに米国任天堂を取材した記事は良かった。日本ではあまり知られていないが,米国任天堂社長(当時)の荒川實こそ任天堂のゲーム機が世界を征する原動力となった男だ。かれは任天堂社長の山内博の娘婿で,その卓越したマーケティング能力はアメリカで広く認められている。興味のある人はデヴィッド・シェフ『ゲーム・オーバー―任天堂帝国を築いた男たち』を読んで欲しい。山内の後任は当然荒川がなると思っていたが,そうはならなかった。確執でもあったんだろうか。かれが社長となっていれば,任天堂もまた違ったものなっていただろう。

ゲーム・オーバー―任天堂帝国を築いた男たち

ゲーム・オーバー―任天堂帝国を築いた男たち