Shouting Fire in a Crowded Theater

日々のあれこれ

幼児の養子縁組に関する規制を撤廃しよう

Libertarianism Japan Projectのほうで「子供の売買」に関する議論が盛り上がっている。児童虐待へのソリューションとしてanacapさんが書いたポストがきっかけだ。ぼくもいくつかコメントさせてもらったが、ひとまずここでまとめておこうと思う。まず、アメリカでは「子供の売買」ならぬ「幼児売買(baby selling)」の議論はそれなりにポピュラーだ。発端となったのが、エリザベス・ランデスとリチャード・ポズナーによる「幼児不足の経済学(THE ECONOMICS OF BABY SHORTAGE)」。

注意しておく必要があるのは、この論文でポズナーたちが問題にしたのは、まずアメリカの養子縁組においてそのニーズにかかわらずは白人の健康な赤ん坊が圧倒的に不足している事態についてということだ。かれらは、この問題が政府による統制、具体的には生みの親が養父母から金銭的な謝礼を受け取ることを禁じる等、によってもたらされている点を指摘し、解決策として幼児売買の自由化(合法化)を提言する。つまり、児童虐待への対策として書かれたものではない。もちろん子供の養育が困難な(潜在的に虐待の可能性が高い)親より愛情のある養親のほうが子供にとっても望ましく、かつネグレクトや虐待も確実に減るだろう。だが、これが児童虐待への切り札になるかと言われれば難しいと思われる。

とはいえ、せっかく幼児売買の話に注目が集まったので、参考になる文献を紹介しておきたい。ドナルド・ブードリュ―「幼児の養子縁組に関する規制を撤廃しよう(A MODEST PROPOSAL TO DEREGULATE INFANT ADOPTIONS)」。ブードリューは、上記のポズナーらと問題意識を共有したうえで、同様に幼児売買の自由化を提案している。なお、かれは議論を進めるうえでいくつかの前提を置いている。第1に「幼児売買(baby selling)」という言葉が不適切かつむやみに世間の反感を買うだろうことを考慮し、「親権の売買(sale of parental rights)」というタームを用いること。第2に分析が複雑になることを避けるため対象を生後9カ月未満の幼児に絞ること。第3に成人の生みの母が子供の親権を持つケースを想定すること。第4に養父母による親権の転売を禁止することいったものだ。

そのうえでブードリューがあげている親権売買のメリットは次の通りだ。第1に幼児不足が解消されるだろうこと。生みの親が親権を売却することから得られる利益を求めるため、養子可能な幼児の供給が増加する事態が予想される。養子が欲しくても持てなかった夫婦にとっては大きなメリットだろう。第2に生みの親が大きな富を得られること。第3に中絶が減少すること。中絶が道徳的観点からも余り望ましい行為ではないことは多くの人が同意するだろう。仮に望まない妊娠であっても、親権を売却することが可能ならば、中絶するよりも出産を選ぶ女性が増えると思われる。

第4に幼児の平均的な健康状態が改善される。これは健康な幼児の親権のほうが不健康なそれよりも市場価値が高いので、妊婦が妊娠期間中の健康状態に気をくばるようになるためだ。第5に児童虐待が減少すること。第6に余り評判のよくない児童養護施設に入所する子供たちが減少すること。第7に不妊治療の価格が下がること。不妊治療と養子縁組は代替的な手段なので、養子可能な幼児の増加は不妊治療への需要を減らす結果になるだろう。

以上、幼児の親権売買の自由化によるメリットをあげてみた。親権売買というと一見非人道的な制度のように聞こえるかもしれない。しかし、そういった情緒的な判断に流されず長所をよく考えてみて欲しい。また、臓器移植に流用されるという反対意見もあるだろう。だが、生みの親が自分の子供を虐待したり勝手に臓器を取り出すことが許されていないように、親権を購入した親がそうした行為を行うことが許されるわけではないことを言うまでもない。ブードリューはこういった想定される批判にたいしても丁寧に回答している。ちなみに、上記の議論は全てアメリカンの制度を前提としてのものだ。正直自分自身日本の養子縁組の現状についてはほとんど知識がない。その点は留意いただきたい。