Shouting Fire in a Crowded Theater

日々のあれこれ

創造的破壊

Tyler Cowen Creative Destructionの邦訳。このところコーエンを取り上げる機会が多い。別にかれの主張の全てに賛成というわけではないが、いろいろと興味深い論者であることは間違いないので、今回も紹介しておきます。

創造的破壊――グローバル文化経済学とコンテンツ産業

創造的破壊――グローバル文化経済学とコンテンツ産業

本書の主なテーマは、「グローバリゼーションがローカルな文化を破壊し、文化の画一化を招いている」といった(左右ともにある)通俗的な議論を批判的に検討することにある。コーエンは、グローバリゼーションは、複数の「社会」の間の多様性(国家間、地域間の違いと言ってもいい)を消滅させていく傾向にあるが、個々人の選択肢の観点では圧倒的に多様性を拡大させていることを指摘する。これはよく考えれば当たり前の話しで、ぼくたちが世界中の映画、音楽、文学、ファッション、料理といったものを享受できるのは、グローバリゼーションのおかげと言っても過言ではない。世の「知識人」連中が、「マクドナルド」やら「ハリウッド映画」(の一部の部分)に目を向けて文化の画一化、俗悪化嘆くのはほとんど何も見ていないに等しいだろう。

ただ、著者が全面的なグローバリゼーション賛成というわけではなく、いくつかの点を留保しながら議論を進めていることは注意しておきたい。例えば、グローバリゼーションが「エートス」を破壊する可能性。ここでいうエートスとは、「ある文化に特有の感じや特色」のことだ。他の文化から隔絶されていたがゆえに達成された「卓越性」といったものが、他の文化に触れることで喪失してしまうことはたしかに考えられる。現代では、16世紀、17世紀サファーヴィ朝の最高傑作のように壮麗なペルシャ絨毯を作ることは難しい。とはいえ、これも結局のところは先進国の金持ちの道楽、途上国の「エキゾチックな」文化が無くなるのは寂しいという話で、途上国の一般人からすればそんなことよりハリウッド映画や日本のアニメが見たいよといったところだろう。ぼくは断然後者を支持するが。

グローバリゼーションが文化に与える影響について、経済理論を用いながらこれほど詳細かつ包括的に議論している本は他にないと思うので、ぜひ一読をオススメしたい。